自律系工学研究室

複雑系工学講座自律系工学研究室

教授 古川正志

世界は複雑である. これは,複雑系工学講座設立時の趣意書の冒頭の言葉です. この言葉のとおり,現代社会は混沌としており,これまでの学問領域では解決できないような問題があらゆる世界に現出しています. 複雑系工学講座は,このような世界で新しい4つの視点,すなわち,自律系工学,調和系工学,表現系工学,そして,混沌系工学の視点から,新しい科学と工学を確立せんと新設された講座です.

自律系工学研究室は,このような位置づけの中で,自然界あるいは人工物の世界にあらわれる複雑系の世界を,特に,自律の視点で科学し,かつ,社会に貢献する工学としての確立を目指している研究室です.

自律系工学とは,Autonomous System Engineering と訳されます. Autonomous の原語である Autonomy は,元来,ギリシャ語から由来し,Auto は self すなわち “自主的な”,nomy は nom を語源とし control すなわち “管理,制御” を意味します. 従って Autonomy は,自らを管理・制御することであり,self-governed または self-control となります. 政治の世界では中央政府に対する自治を意味しますが,複雑系工学では別の様相となります. すなわち,物質から有機体,生物,人工物 (Articraft) へと至るシステムの要素がそれぞれの環境の下で周囲を認識し,判断し,自身の行動を決定し,実行する. その結果が他と相互関係をもち,更に,自身に還元され,要素を含むそのシステム全体が新しいものへと創発・進化する様相となります.

自然界では,人間の住む世界を含めて,このような現象は当たり前のように思えますが,人工物の世界でこのような概念が確立されたのは,18世紀に蒸気エンジンが発明されたときに使用された自動制御で教わる調速器 (Governor) が最初です. 調速器は,デカルトの科学観に基づきますが,現代ではもはやシステムの複雑さにおいてデカルトの科学観では対処できない状況にあります. すなわち,新しい科学観が要求されているのです. このような科学観が複雑系といえます.

ひるがえって,ビールスから私たちヒトをも含む生物には Autonomy を実現している現象が多々あります. ここで,あえて現象という用語を用いたのは,それらが人工物のように何らかの目的遂行を目指すのではなく,生物自身が利己的な行動をとりながら,さながら,調和説のように複雑系として生じる問題にその解決策を見いだしているからであり,そこに自然の法則を作り出しているからです. これらは,人間が織りなす社会活動や経済活動などにも当てはめることができます. また,WEB上における人の自律的な活動も当てはまります. 自然は,人工物の世界,すなわち,ハードウェアとソフトウェアを含めたもの作りの世界における規範を示していると考えることができます. 一方,人工生命の研究は生物にたいしてありえた生命とありうる生命という新しい考えを打ち出しています. これは,先に述べた環境が大きく影響していると考えられます.

このような新しい哲学の下に,自律系工学研究室ではこれまでにすでに以下のような研究を実施してきています.

これらの蓄積された研究を背景に,第2世代の自律系工学研究室として自律系工学の Breaking the Ice を実現するために,自律系工学とは「開放系システムの要素が自律的に挙動する行動が,相互関係によって自己組織化及び自己分散化を創発させ,それによってシステム自体を適応・進化させる理論及び方法論を確立し,人類の福祉に貢献する工学である」と設定しています. 現在,さしあたって以下の3つのプロジェクトで研究を進める方針です.

“グローバル・スケール・ブレイン及びライフ” プロジェクト

本研究プロジェクトでは,地球上にくまなく分散して張られたネットワークが,地球規模頭脳及び生命として,どのような現象を引き起こし,どのような機能を持ち,かつ,工学としてどのようなソリューションを私たちに与えるかを研究します. 例えば,WEB上での自律的なサイトはヒトのニューロンであり,サイト間のリンクをシナップスと考えたときにそこにはヒトと同じような自己組織化が生じ,機能の分担・集合知・データマイニング等の地球規模の複雑インテリジェンスが生じることが予想されます. すでに,本研究室の吉井助教授は複雑ネットワークの解析・応用の研究を実施し,成果を挙げはじめています. また,本プロジェクトでは,オートミック・コンピューティング等の自己修復機能の設計を行う予定でもいます.

“アニボット” プロジェクト

アニボット (Anibot) とは Animation Robot の略です. この研究は,ソフトウェド・ロボットとも考えられますが,従来の研究と異なるのはソフトウェド・ロボットが物理モデリングベースであり,現実感を地球上の物理法則に乗っ取って自律的に行動する点です. 従って,コンピュータ内のロボットには,環境が与えられ,センサーやアクチュエータ及び意思決定機能を持ち,同時に質量や材質の特性等も兼ね備えています. 更に,フロックやハーブ・スクールといった群行動も自律的に創発します. 目標は,エンターテイメント企業に使ってもらえることです. そのためのソフトウェア技術を蓄積する予定です.

“ハイパースケール最適化問題” プロジェクト

コンビナトリアル (Cobinatrial) は,経産省の科学技術の方向のロードマップにも挙げられています. 本プロジェクトは,特に,100万から1000万規模の組み合せ最適化計算に照準を当てます. こうした人類未踏の規模の組み合せ計算には,人間が行うような自己組織化によるパターン認識技術や脳の動作活動のモデル化が必要となってきます. また,1000万規模のデータを取り扱うためには,分散処理やエージェント指向の計算方法も必要となってきます. 本プロジェクトはハイパー規模によって生じる私たちに経験できなかったような現象を解明し,その最適化(最良化)に挑戦します.

について

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